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立教大学

2016年6月3日(金) 18:20-21:00

池袋キャンパス 8101教室 入場無料

講師:白戸圭一・米川正子

【映画鑑賞の感想】

立教大学ジェンダーフォーラム年報第18号より

畑中昴淳(立教大学文学部3年)

 「性暴力は、紛争における戦略の一つとして行われている」。この事実を今の日本でどれくらいの人が知っているのだろうか。

 現在、コンゴ民主共和国(以下コンゴ)東部では民族紛争の延長上で、政府軍と反政府軍、地域のゲリラ部隊や国連軍を巻き込んだ紛争が既に20 年以上も続いている。この地域に住む多くの住民がこの紛争に巻き込まれ被害に遭っている。鉱山での採掘に駆り出され、性暴力の被害に遭い、「虐殺」されるという事態が絶え間なく起きているのである。

なぜ、住民がそのような事態に巻き込まれているのだろうか。コンゴの紛争問題を研究している米川正子先生は、コンゴや隣国の政府軍や反政府軍がコンゴ東部を制圧し、組織 権力の強化のために鉱山支配や性暴力は行われていると指摘する。住民を搾取し、現地の鉱山を支配することで採掘される鉱物資源は、直接的な組織の活動資金になる。それゆえ、服従しない人々は有無を言わせず、殺戮される。

 そしてこの映画の主題でもある性暴力は、どのように行われているのか。事実は非常に残虐である。性暴力は女性だけでなく男性に対しても犯され、被害者は 0 歳から 80 歳までのほとんどすべての年代に当てはまる。そして、それは性器を銃で撃つ、ナイフで切除する、家族の前でレイプを行うなど残虐非道極まりないものである。

 一般に「性暴力」という問題は、個人問題として捉えられている。性的暴力は個々人の関係の中で起こる事件として扱われることが多いからであろう。しかし、コンゴにおけるその実態は、我々が捉えるところとはかけはなれたものだ。性暴力により被害者に恐怖と恥を与えることにより、当人が属するコミュニティを弱体化させ、地域からの強制移動を余儀なくさせるという側面を目的としている。

 本作品は、自身の命を危険にさらしながらも、懸命に性暴力の被害者の方々を治療する 婦人科医のムクウェゲ氏の姿を映している。彼は治療を続けながら、「性暴力」とは何で あるかを世界に訴えている。

 通常、私たちは「性暴力」と聞いてなにかいやらしいようなイメージを抱き、その問題さえ忌避するような傾向がある。しかし、今回の上映会を通してまさにその関わろうとしない、関わりたくないという態度こそがこの問題をより助長させているということが、認識されたのではないだろうか。性暴力は、その側面を利用する形で行われているからだ。

 また、日本から遠く離れたコンゴで起きている問題とはいえ、私たち日本人はこの紛争問題に不可避的に関わっている。ジャーナリストの白戸圭一氏が言及するように、私たちが使う携帯端末にはコンゴ原産である鉱物が広く使用されている。つまり、紛争の資金源となる鉱物資源が使われた製品を購入することで、我々もまた血塗られた紛争の継続に加担しているのである。どれだけ、この事実を知っている人が日本にいるのだろうか。無関心は一番罪深いもの である。本上映会を通して、少しでも多くの人がコンゴ紛争、並びに性暴力の問題に関心を寄せてくれることを願わずにはいられない。


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